パラドックス 〜亀に追いつけないアキレス〜

ノロマな亀に世界一の俊足のアキレスが勝てない?!聞くと何だか納得してしまう不思議なパラドックスの世界です。

はじめに

いきなりですが、パラドックスという言葉をご存知でしょうか? ネットでサクっと意味を調べてみると、

一見すると筋が通っているように思えるにもかかわらず、明らかに矛盾していたり、誤った結論を導いたりするような、言説や思考実験などのこと。

とあります。端的に表している例として、張り紙禁止の張り紙なんてのがあります。 一見すると筋が通っているように思えますが、明らかに矛盾していますよね?

今回は、数あるパラドックスの中から、亀に追いつけないアキレスのお話をご紹介したいと思います。

亀に追いつけないアキレス

昔々のギリシャでのお話…。世界一と言われた俊足の持ち主、アキレスという名の若者がいました。

ある日、アキレスが道を歩いていた時のこと…。 道の傍らに一匹の亀が疲れた様子で座り込んで休んでいました。 彼の名前はカメレス、亀の中では世界一を誇る俊足の持ち主です。 アキレスはカメレスに声を掛けました。 「こんなところで座り込んでどうしたんだい?」 カメレスは疲れた声で答えました。 「買い物に行く途中だったんだけど、街まで遠いから疲れてしまってちょっと休んでいたんだ。 アキレスはいいよね。その世界一の俊足があれば街までの往復なんて大したことないもんね…。 僕もアキレスみたいに足が速かったらなぁ…。」 アキレスは謙遜して答えました。 「君だって亀の中では世界一なんだろ? 本気で走ったら普通の人間が走るのと同じくらいの速さで走れるじゃないか。 私だって、気を抜いたらカメレスに勝てないかもしれないさ。」 カメレスは首を振って答えました。 「本気で勝負したら、アキレスの方が速いんだから勝てる訳がないじゃないか。 ハンデがあればまだ勝てる可能性があるかもしれないけど…。」 と、そこへ一人の老人が通りかかりました。 老人の名前はゼノン、哲学者です。 ゼノンはアキレスとカメレスの話を聞いて、こう提案しました。 「カメレス君、アキレス君と勝負してみてはどうかね? ただし、多少のハンデをアキレス君に背負ってもらう事にはなるがね…。 しかし、ハンデがあればアキレス君はカメレス君には絶対勝てないはずだ!」 カメレスは驚いてゼノンに聞き返しました。 「本当ですか?!でも、どうして…?」 ゼノンはゆっくりとこう説明しました。 「まず、カメレス君がここ、B地点からスタートするとする。 そして、アキレス君はハンデを付けて、カメレス君の後方、A地点からスタートするとする。 二人同時にスタートし、しばらくするとアキレス君は、カメレス君がスタートした地点(B地点)に到達する。 その時には、カメレス君はもう少し先の地点、C地点に到達している。 そして、アキレス君がC地点に到達する頃には、カメレス君はそのもうちょっとだけ先のD地点にいる。 同じように考えていくと、アキレス君がカメレス君がいた地点に到達した時には、カメレス君はそのほんの少しだけ先の地点にいることになる。 そう考えていくと、カメレス君は常にアキレス君より前を走っている事になり、アキレス君はカメレス君には絶対に勝てないことになるのだ。 どうかね?アキレス君がカメレス君に勝てない理由が分かったかね?」 アキレスとカメレスは話を聞き終えた後もしばらく黙っていましたが、やがてカメレスが突然声を上げました。 素晴らしい! アキレスにはどうやっても敵わないと思っていたけど、この方法なら勝てるぞ! アキレス、早速勝負しようじゃないか!」 カメレスはゼノンの話を聞いて、すっかりやる気になってしまったようです。 アキレスは戸惑いながらもこの勝負を受ける事にしました。 相手は亀の中では世界一の俊足とは言え、自分だって世界一の俊足の持ち主です。 ハンデがあるとは言っても本気で走れば負けるはずがありません。 そう自分に言い聞かせながらも、ゼノンの話を思い出し、アキレスはどこか不安に駆られていました。

そんなアキレスの不安をよそに、アキレスとカメレスの競走は始まろうとしていました。 さて、アキレスは本当にカメレスに勝つ事ができないのでしょうか? 気になるその勝負の行方は…?!

ゼノンの言う通り、カメレスの少し後ろからスタートしたアキレスは、あっという間にカメレスを抜き去り、悠々と勝利を収めたのでした。 ゼノンの言った通りならばアキレスはカメレスに絶対追いつけないはずでしたが…ゼノンの言った事は間違っていたのでしょうか?

あなたはどう思いますか?

管理人的見解

さて、どういう話なのか分かって頂けましたでしょうか? 「よく分かんないよ…」 という方は、ゼノンの説明をもう一度よく読んでみて下さい。 (図解すると分かりやすいんでしょうが、管理人の絵心の無さゆえお見せできるような絵が描けないのですが、文章から意図を汲んで下さいませ。(^^;ゞ)

この話は思考実験での話ではあるんですが、現実で考えたら、足の速さに差があれば足の速い方がさっさと抜いていってしまうのはあまりにも当たり前の話ですよね? ですが、ゼノンの説明をよ〜く考えてみると、競争中のある瞬間を考えてみると、必ずカメレスの方がアキレスより前にいるはずなので、やっぱりどうやってもアキレスはカメレスに追いつけないように思えます。 しかし、ゼノンの説明は間違っている訳ではなく、確かにアキレスはカメレスに追いつく事はできないのですが、実はある前提が巧妙に隠されています。

ゼノンの説明で、アキレスがスタートしてからB地点まで辿り着くのに1秒間かかったとします。 その時点ではカメレスはC地点におり、まだアキレスは追いついていません。 そして、アキレスがB地点からC地点まで辿り着くのに半分の時間、0.5秒間かかったとします。 この時にはカメレスはD地点まで行っており、やはりアキレスは追いついていません。

このように考えていくと、アキレスとカメレスの間の距離は縮まっていはいますが、アキレスが次の地点まで辿り着くのにかかる時間も短くなっている事が分かります。 これを延々と続けていくと、確かにアキレスはカメレスには追いつく事はできませんが、かかる時間も短くなっていく為、競争がスタートしてからの経過時間がある時間より先に決して到達しない事が分かります。 この例で言うと、0秒にスタートしたとして、経過時間は、1+0.5+0.25+…となり、これを無限に続けると、値は2に収束します。

このある時間と言うのは実は、計算上アキレスがカメレスに追いつく瞬間の時間になります。 つまり、アキレスとカメレスの足の速さから普通に計算すると、2秒後にアキレスはカメレスに追いつくという事になります。 しかし、ゼノンの説明では競争がスタートしてからの経過時間は決して2秒に到達しないという事になります。

つまり結局のところ、ゼノンの説明は、 アキレスがカメレスに追いつく時間(スタートから2秒後)になるまでは、アキレスはカメレスに決して追いつけない。 と言う、あまりにも当たり前の事を言っているに過ぎません。

これが管理人が考えるアキレスと亀のパラドックスに対する見解です。

余談

管理人的には上記の通り、数学的な考えを用いれば、何と言うことはない当たり前の事を言っているだけだという見解なのは既に述べた通りです。 ただ、このパラドックスを提唱したゼノンは哲学者で、このパラドックスで述べたかったのはそんな簡単な事ではなかったようです。 ここでは飽くまで数学や物理を基本とした科学の観点で面白さを伝える事を目的としていますので、ゼノンの提唱した哲学的な観点からの見解には敢えて触れません。

だいぶ文字ばっかりになってしまったので、かなり読みにくくなってしまったかもしれませんが…この記事で、パラドックスの不思議さや、こういった思考実験の面白さが伝われば幸いです。